『振り売り』とは、「農家が、野菜を売り歩くこと」である。京都では、今でも『降り売り』が行われている。
竹で編んだカゴを背負って歩くようなもの。『大八車』と呼ばれる荷車を引いていくもの。軽トラックで走り回るもの。『降り売り』では、さまざまな手段で野菜を運び、売る。農家が直接売りにいくので、野菜が新鮮であり、生産者がはっきりしているので安心して食べることができる。
友人の家でも、『降り売り』をしている。
『降り売り』は、友人のおかあさんの仕事だ。おかあさんは、休日・祝祭日を除く、ほとんど毎日、『大八車』を引いて『降り売り』に出掛ける。
『大八車』は、長さ5m近くにもなる大きな荷台。その真ん中あたりの両側に1つずつ大きな車輪。荷台にくくり付けられた幅太のロープをタスキのように肩にかけ、荷台の先頭に差し込んだ長い棒で方向を定めながら移動する。『大八車』には、大きめのカゴで6つから7つ。たくさん荷物を積むことができる。だから、冬場は、大根やカブラなどの根野菜が多くなると、『大八車』の総重量では、数百キロにもなる。
その『大八車』を体重40キロに満たない、小柄なおかあさんが、引っ張って歩く。
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『降り売り』には、前日、または、その日の早朝に収穫された、本当に新鮮なものが準備される。おかあさんが売り歩くコースはほぼ決まっていて、そのコース上にあるお得意さんの一軒一軒に声をかけながら回る。何度かおかあさんについて回ったことがあるが、なかなか大変な仕事である。
『大八車』に載せた荷物は重くても、大きな車輪を中心に天秤になっているから、重さ自体は、さほど苦にならない。もっとも、野菜が売れはじめると、野菜の売れ行きにどうしてもバラツキが出るから、荷台の前と後ろのバランスが悪くなる。そうなると、荷物を動かしてバランスをとらなければいけない。これに、なかなか勘がいる。
しかし、おかあさんを注意深く見ていると、カゴの中にある野菜を少しづつ別のカゴへと移し替えている。
うーん。やるなあ。
坂道などでは、『大八車』の重みで転がっていかないように、荷台をできるだけ傾けて移動させる。こんな時、おかあさんは、長い棒をみごとに操る。荷台の後ろに付けられた古タイヤをストッパーとなるように引きずって移動する。これも、簡単そうで、なかなか難しい。しかし、おかあさんは、なんの苦もないように、細い路地であろうが、ためらいもなくスイスイと入っていく。
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『大八車』少し引っ張ってしばらく移動すると、車を止めて、周辺の家に声をかけて回る。すると、お得意さんたちが、お財布を持って、小さな網かごやざるを持ってやってくる。
その様子を見た、通りがかりの観光客がやって来て、『大八車』の上に並んだ野菜を覗き込む。どこにでも、売り場ができてしまう。
最近のテレビ・コマーシャルで、『玄関でショッピング!』なんていうのがあるけど、友人の家では、先祖代々、ずいぶんと昔から、『玄関でショッピング!』をしていた。しかも、新鮮な、文字通り、採れたての野菜である。
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